
声をかけることは、特別なことではない
声かけの現場で、日々こどもや若者と向き合っている皆様のインタビュー記事を、いつも興味深く拝読しています。一つ一つの言葉に、現場で積み重ねてこられた経験だからこその説得力を感じます。
この度、声かけキャンペーンにご賛同いただいた、教育系YouTuberの葉一(はいち)さん、プロサッカー選手の田中パウロ淳一さんのお二人と対談する機会をいただき、私自身も改めて「声をかけること」について考える時間を持つことができました。
お二人のお話を伺って感じたこと、そして私自身の経験についても、少しお話ししたいと思います。
葉一さんの言葉から、思い出したこと
葉一さんは毎年、夏休みが終わる頃、悩みや不安を抱えるこども・若者に向けてメッセージを届け続けていらっしゃいます。その背景には、ご自身が中学生の頃にいじめでつらい経験をされ、夏休みの終わりが近づくことに大きな苦しさを感じていたという体験がありました。
そのお話を伺った時、私自身の記憶もよみがえりました。
私も中学生の頃、いじめで深く傷ついた時期があります。それは、40歳近くになっても心に残り続けるほど、つらい経験でした。
周囲から見れば、私は普通に見えていたと思います。自分でも、できるだけ普通に振る舞っていました。でも、心の中は本当につらかった。
ある時、友人と歩きながら、その気持ちをほんの少しだけ打ち明けたことがあります。すると友人は、
「そんなことないよ。大丈夫だよ。誰もそんなふうに思ってないよ」
と、ごく自然に言ってくれました。
おそらく、その友人は今ではそのことを覚えていないと思います。私も、その場で「ありがとう」と伝えた記憶はありません。
けれど、受け取った私にとって、その一言はとても大きなものでした。それまで胸の中にあったものが、少し軽くなった。
人の言葉には、ときに、言った本人が思っている以上の力があります。今回の対談で、そのことを自分自身の経験として改めて思い出しました。
同時に、あの頃の自分に相談窓口や行政の支援を紹介されていたとして、すぐにそこへ手を伸ばせただろうか、とも考えました。
つらい時ほど、自分から助けを求めることは難しい。だからこそ、必要な時に頼れる相談先を、少しでも分かりやすく、たどり着きやすい形にしておくことが大切だと考えています。
その思いから、今回の声かけキャンペーンを始めました。また、こどもや若者、保護者の方が、自分に合った相談先にたどり着きやすくなるよう、従来こども家庭庁のこども用ホームページに設置していた相談窓口情報を見直しました。チャットボット形式を導入し、「こども相談ガイド」として使いやすい形に整えました。今すぐ使わなくてもいい。でも、苦しい時、誰かに話を聞いてほしいと思った時に、「ここを見ればいい」と思い出してもらいたいです。
田中さんの言葉から、考えたこと
そして、田中パウロ淳一さん。
田中さんは、けがをされている中、松葉杖で対談にお越しくださいました。
お話の中で特に心に残ったのは、田中さんも、何気ない一言に救われたり、前向きになれたりした経験がたくさんあるということです。
田中さんは、普通にサッカーするだけでは足りないと、「自分には何ができるのか」「どこが強みなのか」を自分なりに考え、工夫を重ねて、プロサッカー選手になられています。
田中さんも、けがを気遣う言葉に自分を肯定してもらったと感じ、日常生活での何気ない挨拶に「言霊」を感じられている。私自身は野球少年でしたが、プロ野球選手にはなれませんでした。今は政治家として頑張っていますが、ときに心が弱ることもあります。そんなとき、優しい言葉が力になったことを思い出しました。声かけの持つ力を改めて感じました。
著書『選ばれなかった僕の戦い方』にも書かれている、FC岐阜時代の監督・ラモス瑠偉さんとのエピソードも印象的です。
田中さんが、病院に通うこどもたちと交流するラモスさんの姿を見て、「僕もこういう活動に参加したいです」と話したところ、ラモスさんから返ってきたのは、
「何だ、その『活動』って。こんなの当たり前のことだよ」
という言葉でした。田中さんは、その一言にハッとしたそうです。そして、その後、こどもたちと接する一瞬一瞬を大事にされているということです。
人は時に、誰かの言葉や生き方との出会いによって、揺さぶられることがあります。
そこで気づきが得られること自体が重要です。しかし、私としては、さらに自ら行動に移し、また次の人へ渡していくことに意義を感じます。
ラモスさんから受け取ったものを、田中さんがご自身の生き方の中で育て、人との向き合い方を深め、さらに著書や発信を通じて若い世代へ伝えている。その姿に、私はとても共感しました。
そして、このお話には「声をかけること」の本質があるように思います。
誰かを気にかけることは、特別な立場の人だけが行う「活動」ではありません。
何気ない一言が、誰かの支えになる
「おはよう」「最近どう?」「何かあった?」。そんな何気ない一言でいい。
声をかけた側にとっては、ほんの数秒の出来事でも、受け取った側にとっては、その一言が長く心に残ることがあります。私自身も、そうした一言に救われた一人です。
もちろん、一言の声かけだけですべてが解決するわけではありません。だからこそ、日常の中で人と人とのつながりを増やすことと、必要な時には相談先や支援につながること。その両方が大切です。
身近な人を少し気にかけることが、もっと当たり前になること。そして、助けが必要になった時には、支援にたどり着けること。
そうした環境をつくっていくことが、こどもや若者が安心して過ごせる社会につながるのだと思います。
葉一さんとの対談動画はこちら ▶ 動画を見る
田中パウロ淳一さんとの対談動画はこちら ▶ 動画を見る
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