親からの声かけは、子どもの力を信じるところから

学校に行きたがらない、友達と遊ばなくなる…こどもに何かしらのサインが表れたとき、親は不安になります。
「何があったんだろう」「何と声をかければいいんだろう」。大切なわが子だからこそ、不安や心配でいっぱいなり、何とかしてあげたいと思うものです。

そんなときでも、まず「こどもの力を信じてみる」と、東京・下北沢でフリースクールを運営し、数多くの親御さんからお子様の相談を受けてきた佐野英誠さんは話します。
こどもが落ち込んでいるときは、愛情をもって見守る。そして少し元気を取り戻してきたら、失敗も受け止めながら徐々に手を放し、自分の力で一歩を踏み出せるよう背中を押していく。一方、親も一人で抱え込まず、周囲に相談していい。
こどもの力を信じることから始まる声かけについて、佐野さんに聞きました。

こどもが落ち込んでいるときこそ、孤立させない

ー 夏休み明けは、学校に行きたくないと感じるこどもも多いのでしょうか。

1年の中で圧倒的にご相談やお問い合わせが多いのは、夏休み明けの9月です。
夏休みを挟んだことで気持ちの変化が起きて、9月から急に様子が変わってしまう。
特に中高生では、学業での挫折や人間関係の悩みを抱えやすい時期でもあり、不安定になりがちです。こどもたちは人間関係にとても敏感です。
大人から見れば些細に思える一言でも深く傷つき、殻に閉じこもってしまう子もいます

ー 親としては、そんな姿を見ると「何とかしなければ」と思いますよね。

そうなんです。ただ、良かれと思って掛けた言葉が、逆効果になることもあります。
「みんな行っているよ」「いつまで休むの」
励ますつもりでも、本人には「自分だけできていない」と追い込む言葉として届き、一層殻に閉じこもってしまいます。こどものエネルギーが低くなっているときは、まず孤立させないことです。すぐに答えを出そうとしなくてもいい。話を聞く。気に掛ける。そして、つながり続ける。

一方で、親御さんがこどもに気を使いすぎて、何も言えなくなってしまう必要もありません。今はしっかり休む時期なのか、少しずつ次の一歩を考えられる時期なのか。その子の状態を見ていくことが大切です。
こどもの様子がいつもと違えば、親御さんが不安になるのは当然です。でも、そんなときこそ先回りせずに、こどもの力を信じてあげてほしいと思います。

「親に胸を張れる自分でいたい」。それがこどもの本丸の欲求

ー 佐野さんが「こどもの力を信じること」を大切にするのはなぜでしょうか。

僕は、こどもの本丸の欲求は「親に対して胸を張れる自分でいたい」ということだと思っているんです。
こどもは親のことが大好きです。
本当は、「こんなことができたよ」「今日はこれを頑張ったよ」と胸を張って言いたい。親に認めてもらいたいし、喜んでもらいたいんです。

「こどもは親のことが大好きです。だから信じてほしい」

実は、僕自身も小学生の頃にいじめを受けていました。当時一番考えていたのは、いじめそのものよりも「どうやって母親に気づかれないようにするか」でした。親に心配をかけたくなかったという思いがありました。
多くのこどもたちと接してきて感じるのですが、その気持ちは今も変わりません。
ところが、学校に行けない、勉強がうまくいかない、人間関係の問題もある。そうしたことが重なると、自分は親の期待に応えられていないと感じてしまうことがあります。そして、親に胸を張れない自分が嫌になり、ますます自信を失い悪循環になる。

そういうときでも、親御さんには、こどもの力を信じていてほしいんです。心の底から「わが子は素晴らしい」という気持ちを持って接することです。「今日はここまでできたね」「昨日より少し進んだね」
日々の小さな成長を見つけて言葉にして伝えてあげる。親が自分を信じてくれている。その安心感が、「もう少しやってみよう」というエネルギーにつながっていくと思います。

守る愛情から、背中を押す愛情へ

ー ずっと見守り続けることとは少し違うのでしょうか。

そうですね。
こどもが深く傷ついているときは、まず大人が愛情をもって見守ることが必要です。
でも、ずっと先回りして失敗しないように守り続けることが、その子のためになるとは限りません。安心できる環境の中で十分に休み、少しずつエネルギーが戻ってきたら、今度は本人に考えてもらう。

「そろそろ何か始めてみる?」「どんなことならできそう?」

そんなふうに、こどもの気持ちを聞きながら次の一歩について話し合うんです。
こどもは、背中を押してくれる愛情を待っていることがあります。もちろん、いきなり大きな目標を掲げる必要はありません。

自分で考える。自分でやってみる。そこで失敗することもある。その失敗も受け入れながら、少しずつ本人に任せていくことが大切です。

こどもの自立や、その先の成長を願う親御さんからすれば、親が答えを提示したり手伝ったりするほうが早いですから、遠回りに見えるかもしれません。でも、自分で考えて、失敗して、またやってみる。その経験が、こども自身の力になっていきます。
まずは見守る。そして、力が戻ってきたら、その力を信じて少しずつ手を放していく。必要なときに背中を押すことも、大切な愛情だと思います。

親でも先生でもない大人が、声をかけてくれる

佐野さんは、下北沢という地域とのつながりも大切にされていますね。

僕は、昔の下町にあったような人と人との距離感を大切にしたいと思っています。
今は核家族が増え、地域とのつながりも薄くなっています。家庭の中でも、親子でゆっくり話す時間が少なくなっているように感じます。

下北沢の商店街の中にあるスクールの前で

昔は、近所のおじさんやおばさん、商店の人がこどもに普通に声をかけていましたよね。
「おはよう」「最近どう?」「元気ないじゃん」
親でも先生でもない大人が自分のことを知っていて、何となく気に掛けてくれている。そういう関係が地域の中にありました。
ここは下北沢の商店街の中にあります。この街には、そういう下町的な人との距離の近さがまだ残っています。
地域の大人にも、こどもたちに声をかけてもらう。何か特別なことをする必要はありません。家庭と学校だけではなく、地域にも自分を知っている大人がいる。
こどもの周りに「気に掛けてくれる人」が何人もいることが、孤立を防ぐことにつながると思っています。

「声かけに迷ったら、気軽に相談していい」

保護者も「今は見守るべきなのか」「少し背中を押すタイミングなのか」と迷ってしまうことがありますよね。

もちろん迷いますよね。そんなときは、気軽に専門家に相談してほしいです。
「こんなことで相談していいのかな」と遠慮する必要はありません。
何と声をかけたらいいか分からない。わが子は、今は休ませた方がいい状態なのか、少し背中を押してもいいのか分からない。その段階で相談していいんです。

学校でも、地域の人でも、私たちのような支援団体でもいい。チャットや電話で相談できる窓口もあります。第三者に話してみることで、今のお子さんの状態を少し冷静に見られるようになったり、親御さん自身の気持ちが整理されたりすることもあります。
こどものことを一番大切に思っているからこそ、不安になるし、声のかけ方にも迷います。だから、親御さんだけで答えを出そうとしなくていい。こどもを孤立させないことと同じように、親御さんも一人で抱え込まないことが大切です。
声かけに迷っている。そのくらいの段階で、ぜひ周りの力を借りてほしいと思います。

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