「それは大変だったね」―共感から生まれる何気ない声かけ。こども・若者の居場所を本気でつくる

「雨、すごかったね」「じゃあね。気を付けて」
千葉市稲毛区にある10代・20代の「やりたい!」を応援する拠点、ちばユースセンターPRISMで交わされるのは、そんな何気ない言葉だ。

悩みを抱えるこどもや若者を前にすると、「励ましたほうがいいのかな」「この言葉で悩みは解決するかな」と迷うことがある。けれど、良かれと思った言葉が、必ずしも相手の求めているものとは限らない。
PRISMの運営団体である一般社団法人Spice代表理事の郡司日奈乃さんはPRISMを訪れるこども・若者たちと向き合うときに大切にしていることがあるという。
それは、解決策を示すことよりも「共感すること」。何気ない声かけが自然に交わせる居場所を、本気でつくることだ。
「それは大変だったね」
相手の気持ちを受け止め、同じ目線に立つ。そうした積み重ねが、こども・若者たちの安心につながっていく。見守るでも、励ますでもない。同じ空間で共感を伝える。そんな声かけのあり方について、郡司さんに話を聞いた。

「あなたのこと、気にしているよ」を伝える

ー ユースセンターというと幅広い印象がありますが、「PRISM」は、どのような方が利用しているのでしょうか。

10代・20代の世代を対象にした居場所です。就学前の小さいお子さんが児童館に通うのと似ていて、気軽に立ち寄れる場所にしています。過ごし方は自由で、勉強する、ゲームをする、ただおしゃべりをすると様々です。教え導く場所ではなく、思い思いに過ごせる場所として運営しています。

声かけは、必ず利用者全員にしています。挨拶はもちろんですが、そこに天気の話や持ち物など、何かしらひとことを付け足すようにします。
何気ない会話から、「実は今日こんなことがあって」という話につながることもありますので、最初の挨拶にプラスアルファを付け、「あなたのこと、気にしているよ」がなんとなく伝わるようにしています。

「なんとかしよう」とせず、まず感情に“相乗り”する

ー 不登校気味だったり、何かに悩んでいたりする利用者もいますか。

はい、そのような悩みを抱えている場合もあります。悩みを打ち明けられたときは、基本的にはまず聞くことに徹しています。
何かに怒りを感じていたら、その気持ちに寄り添います。「それは大変だったね」「それはないよね~」と、同じ目線で受け止めるようにしています。求められているのは、冷静な意見や解決策ではなく、共感であることが多いからです。そして、ここは大人の都合や価値観を押し付けず、本人の思いを大切にする場所でありたいと思っているからです。
恋愛や推し活などのプライベートな話は、その話し相手になっているスタッフだけに相談しているケースもあるので、そういう時は、ほかのスタッフはあまり深く聞かないようにしています。

ー スタッフの方も若い方が多いです。悩みを受け止める際に、「これは気を付けなくてはいけない」と共有していることはありますか。

まず、対利用者という視点では、密室で二人きりにならない、個人の連絡先を交換しない、外で個人的に会わないなどのルールを明文化して徹底しています。冷たく思われるかもしれませんが、特定の個人への依存が強まりすぎることが、この場にとって一番のリスクだと考えているからです。
近づきすぎない。でも、無関心でもない。その絶妙な距離感が、利用者の安心につながるのだと思います。

また、スタッフの中に福祉の仕事に携わっている者がいるのですが、彼女は「一人のスタッフが、人生かけて本気で向き合えるケースには、限りがある」と言います。
これは、利用者との関わり方を考える上でとても大事なことだと捉えています。私たちは何でも自分たちで解決しようとはしません。必要なときには専門機関につなぎながら、普段は一人の人として関わる。そうした関わり方が、利用者に安心感をもたらしているのだと思います。

「この人なら話せそう」を、こどもが選べるように

ー 利用者にそれぞれスタッフがついて一緒に過ごしているんですね。

はい。最初の利用の時からスタッフから積極的に話すようにしています。
スタッフは元気で明るいタイプもいれば、穏やかにじっくり話を聞けるタイプもいます。あえて色々なキャラクターを揃えているのは、利用する側が「この人にだったら声をかけられる」と、自分に合う相手を直感で選べるようにするためです。

学習の悩みを打ち明けやすいスタッフもいれば、恋愛相談が集まりやすいスタッフもいます。私自身は、千葉大学大学院で教育学を学んでいることもあってか、進路や探究学習の相談が多く来ますね。

PRISMに設置されている3Dプリンターで利用者やスタッフが制作したグッズ
定期的に開催しているフードパントリー用の食材

本人のペースを守れば、居場所は自分でつくっていける

ー 声かけで気を付けている点はありますか。

象徴的な例として、私たちは「今度、友達も連れておいでよ」とは言わないようにしています。 
友達の前で見せる顔と、ここで見せる顔をあえて分けたいこともあるからです。遊び場として来るか、自分の拠りどころとして来るかでニュアンスが違うので、「またおいで」とは言っても、「誰か誘っておいで」とはあまり言いません。
最初はグループで利用していた利用者に対して、「一人で来てもいいんだよ」と伝えると、次の時は一人で来ることもあります。

ー 最初に訪れるきっかけはどんなものが多いのでしょうか。

PRISMの公式Instagramが多いですね。
「友達がほしくて、行ってもいいですか」というメッセージが届くこともあります。見知らぬ場所に連絡をくれること自体が、すごくエネルギーを使った行動だと思います。そういうときは、「どうぞどうぞ!ウェルカムです」「〇月〇日、待ってるね!」と具体的に伝えるようにしています。

また、保護者の方から「うちの子は引っ込み思案なのですが、連れて行っても大丈夫でしょうか」という相談をいただくこともあります。その場合は「開館前の30分、誰もいない時間に見学だけしてみますか」といった具体的でハードルの低い提案をするようにしています。

初めて来た場合、いきなり他の利用者の輪に入るのは難しいものです。最初はスタッフと一対一の関係をつくり、この場所に慣れてもらいながら、少しずつ他の利用者とも自然に言葉を交わせるようになっていく。そのグラデーションを大事にしています。

楽しんでいる空気感は、こども・若者にも伝わっていく

ー こども・若者たちと接する周囲の人たちは、その距離感なども悩んでいると思います。一緒に時間を過ごす上で、目指していることは何でしょうか。

一番大切にしているのは、私たち自身も一緒になって楽しむことです。
例えばここでは定期的にイベントを開催していますが、それらはスタッフ自身や利用者自身の「やりたい」という気持ちから始まったものを大切にしています。岩手出身のスタッフは「わんこそうめん」を提案し、本が好きなスタッフは読書関連の企画を実施しました。スタッフが本気で楽しんでいる空気が伝わるような場づくりを心がけています。

スタッフが無邪気に楽しんでいる姿を見て、利用しているこども・若者たちは「こんなに自由でいいんだ」と安心するようです。その空気が伝わって、今度は利用者自身から新しい企画のアイデアが出てくることもあります。

声かけとは、特別な技術ではありません。ふとした変化に気づいてひとこと伝えること。そして、スタッフ自身が楽しんで生きる姿を見せること。その積み重ねが緊張をほぐし、「頑張ってもいいし、頑張らなくてもいい」と、さまざまなあり方を受け止められる場所をつくっていくのだと思います。

ちばユースセンターPRISM

一般社団法人Spice

ちばユースセンターPRISM 公式Instagram

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